フュージョンエネルギーは「核融合」から生まれる
-フュージョンエネルギーって、どんなエネルギーですか。
フュージョン(fusion)は核融合のことで、核融合反応から生み出されるエネルギーをフュージョンエネルギーといいます。まだ聞きなれないかもしれませんね。
-はじめて聞きました。核融合というと、原子力発電所……?
「核」からの連想で誤解されがちなのですが、現在の原子力発電所のしくみとは異なります。
ちょっと整理すると、ここでいう「核」は、原子の中心にある「原子核」のこと。そして、小さな原子核と小さな原子核をくっつけて大きな原子核にするのが「核融合」、大きな原子核を割ってバラバラにするのが「核分裂」です。
-「核」を「分裂」させるか、「融合」させるかの違いがあるのですね。
そのとおりです。世界中の原子力発電所で、「核分裂」から生まれるエネルギーを利用して電気がつくられています。その一方、「核融合」のエネルギーで発電しようという取り組みが世界中で進められているのです。
-ということは、核融合の発電所は、まだ存在しない?
はい、実用化にはもう少し時間がかかりそうです。
現状はというと、核融合を起こしてエネルギーを少量つくるところまではできています。ところが、そのエネルギーを取り出して発電に使うための研究・開発がちょっと遅れているのです。なので、私たちは、日本のものづくりの知見と技術を生かして、エネルギーを取り出すための熱交換器や発電システムなどを開発してきました。京都に建設中の模擬発電プラント「UNITY-1」(※)では、2025年度中の発電実証実験を目指して、世界中の機関との共同研究を行っています。
-おお、核融合発電所の実現はもう目前ですね!
とはいえ、さまざまな課題がまだまだあります。長い時間安定して核融合反応を継続させることはまだまだ難しいです。そして発電できるだけではなく、核融合発電が社会で受け入れられなければなりませんから。そのためにも、科学者だけではなく、いろいろな分野や立場の人との協業や対話が欠かせません。
1グラムの質量から1世帯3,000年分のエネルギー
-そもそも核融合からなぜエネルギーが生まれるんですか。
質量とエネルギーは等価だからです。
-……質量とエネルギーは等価??
質量というのは物質そのものの量で、キログラム(kg)やグラム(g)などの単位で表します。厳密には違いますが、ここではざっくりと「重さ」ととらえてもいいでしょう。
その質量とエネルギーは、異なる形態をもつ同じもので、質量として現れることもあればエネルギーとして現れることもあります。ということは、質量が減少するとエネルギーが発生して、エネルギーが加わると質量が増加するわけですね。この現象は、アインシュタインの世界で最も有名な式E=mc2で導かれました。
-核融合ではエネルギーが生まれるのだから、質量は消えているということですか。
そのとおりです。原子核が別の原子核とくっつくとき、質量がわずかに減って、その分がエネルギーとなっています。
-どれくらいの量のエネルギーが発生しますか。
では【E=mc2】を解いてみましょうか。Eはエネルギー、mは質量、cは光の速さなので、計算すると……。1グラムの質量は約90兆ジュールのエネルギーに相当することがわかります。これは、平均的な家庭1世帯の3,000年分をまかなえる量ですね。
-すごい量のエネルギーになるのですね!
材料は重水素と三重水素だから「核のごみ」は出ない
核融合は、太陽で起きている現象で、太陽を燃やし続けるエネルギー源になっています。それを地球で人工的に再現するのが、フュージョンエネルギーなのです。
-だからフュージョンエネルギーは「地上の太陽」といわれるのですね。地球では核融合をどうやって起こすのでしょうか。
その方法は主に二つあります。一つが、「レーザー核融合」。すごく強い圧力をかけて、反発しあう原子核と原子核の距離をどんどん近づけていって、原子核を融合する方法です。
もう一つは「磁場閉じ込め」。スカスカの容器に原子を閉じ込めておいて、どんどん温度を上げていきます。温度とは原子の動いている速さのことなので、高温になった容器の中はすごい速さで原子が飛び回っている状態です。そうすると、タイミングよく原子核同士がぶつかることがある。その衝突によって原子核を融合する方法です。
-原子にもいろいろな種類がありますが、何を使ってもいいんですか。
核融合に使用するのは、主に重水素と三重水素(トリチウム)です。どちらも水素の仲間で、重水素は海水からほぼ無尽蔵に調達できます。
-トリチウムって、あのALPS処理水のトリチウムですか。
そうです、そのトリチウムです。核融合では、大気中に放出される可能性はあります。ただ、その量は検出できないほど微量で、健康や自然環境への影響はほぼないと考えても差し支えないでしょう。もともと自然界にも存在する放射性物質の一つで、半減期は12年ということもあり、人類が何とか管理できる物質と考えています。
-なるほど。「核のごみ」は出ませんか。
「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物は出ません。それは核分裂に使用するウランやプルトニウムの割れ残りなので、そもそも核融合では出ないのです。ただ、核融合でも放射性物質は出ます。
-トリチウムではなく?
トリチウムではなく、ほかのものです。核融合は膨大なエネルギーが発生するため、どうしても炉の材料中に混ざり込んだ不純物が、放射性物質に変化してしまうのです。いま、研究者や技術者は、不純物を減らして放射化を防ぐ取り組みを進めています。
エネルギーをめぐる悩みも争いもない世界
-武田先生の思い描くフュージョンエネルギーのある社会とは?
核融合が実現すると、ほぼ無尽蔵のエネルギーを地球にもたらすことができます。そうすると、人類がエネルギー不足に二度と悩まされない社会になるはずです。
-おお、日本のエネルギー自給率も上がりますね!
資源に恵まれない日本は、エネルギー赤字国です。でも、エネルギーが、地球の掘削ではなく、知の探求によって生み出されるものになれば、他国の化石燃料に頼らず、自国でまかなえますからね。エネルギー黒字国になるのも夢ではありません。また、フュージョンエネルギーは温室効果ガスを排出しないので、脱炭素社会の実現にもつながります。
大気汚染をはじめとする環境問題や戦争など人類の問題は、エネルギー資源が原因となっていることも少なくありません。だから、エネルギー資源から解き放たれた人間は、文明の次のステージにいけると、私は信じています。100年後、1000年後の遠い未来、そんな社会になっていると想像すると、すごくわくわくするのです。
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